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宇都宮地方裁判所 昭和33年(ワ)228号 判決

原告 遠山三郎 外四六名

被告 パインミシン製造株式会社

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

事実

(請求)

原告等訴訟代理人は「被告は原告等に対しそれぞれ別表第一記載の各金員及びそれぞれこれに対する昭和三三年五月二八日より完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は主文第一項同旨並びに「訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。

(主張)

一、原告等訴訟代理人は請求の原因として、

被告会社はミシン機械等の製造を業とするもの、原告等は昭和三三年三月当時より今日まで被告会社と雇傭関係にあつたものであるが、原告等はいずれも昭和三三年三月一六日から同年四月一五日までの間、所定の休日及びスト参加時間等を除いて、労働契約の趣旨に従い定時に会社に出勤して其の指示をまち労務を提供したところ、被告会社もこれを受領した。

被告会社の賃金の締切期間は毎月前月一六日から当月一五日までゝ、その間の賃金が毎月二七日に支払われることになつており、昭和三三年三月一六日から同年四月一五日までの賃金(四月分給与)は四月二七日に支払われた。一方同年四月八日被告会社は、一人平均一〇〇〇円の賃上げを同月一日にさかのぼつて実施することをきめたが、昇給の査定に日時を要し、四月二七日までに新基本給を確定することができなかつたゝめ、同日には旧基本給にもとずいて仮払いをなし、その差額は後日精算のうえ同年五月二七日に五月分給料に合算して支払つた。

原告等の当時に於ける給与の明細はいずれも別表第二記載のとおりであり、原告等は同年四月二七日及び同年五月二七日の支払日にそれぞれ同表「支払いを受けうべかりし給与額」欄記載の金額の支払をうけるはずであつたのにかゝわらず、被告会社は右各日、原告等の賃金よりそれぞれ同表「賃金カツト減額分」欄記載の金額を差引き、同表「現実支給額」欄記載の金額しか支給しなかつた。

よつて原告等はそれぞれ被告会社に対し、これが未払の差額合計即ち別表第一記載の各金額及びそれぞれこれに対する給料精算額支払日の翌日である昭和三三年五月二八日以降右金員完済にいたるまで年五分の割合による法定遅延損害金の支払いを求めるため本訴請求に及んだものである。

とのべた。

二、被告訴訟代理人は答弁並びに抗弁として、

原告等主張の請求原因事実中、原告等が労務を提供し、被告会社がこれを受領したとの点を否認し、その余の事実をすべて認め、また右の点についても本件賃金カツトの対象となつた時間中、原告等がそれぞれ被告会社に出勤していた事実は認めるが、其は労務の提供ではないので被告会社が原告等の労務の提供を受領したことはない。

この間の事情を詳しく説明すると次のとおりである。即ち

被告会社の従業員約八五三名中労働組合法第二条但書該当者を除く六五八名はパインミシン労働組合(以下単に組合と略称する)を結成し、原告等はいずれもその組合員であるが、右組合は昭和三三年一月一〇日被告会社に対し、組合員一人平均二〇〇〇円の賃上げを要求し、団体交渉に入つたがこれに対し被告会社が同年二月二八日一人平均七五〇円しか賃上げできない旨回答したのを不満として右賃上げ斗争宣言を発し、部分ストその他の争議手段にうつたえてきた。

いま、その経緯を列記すれば次のとおりである。

三月一〇日 針工場組合員二一名の部分スト(三・六一時間)

三月一二日 塗装鍍金工場組合員七名の部分スト(六時間)

三月一三日 全員スト(一時間)

三月一四日 木村寛以下一三名の指名スト(一・九五時間)

三月一七日 第一機械工場アーム班一七名の部分スト(五・五時間)

第一機械工場四名、第一組立工場七名、塗装鍍金・工具各四名計一九名の部分スト(一・六一時間)

三月一九日 工具工場二一名の部分スト(五・五時間)

三月二二日 塗装鍍金工場三七名始業時から無期限部分スト

組合は職場転換・職務変更の業務命令を拒否するよう指令

三月二四日 工具他八名部分スト(五・五時間)

第一組立工場六四名部分スト(一時間)

三月二五日 工具・営繕計一二名部分スト(七時間)

針工場二一名部分スト(〇・八六時間)

三月二六日 全組合員六五八名二四時間スト

三月二七日 工具工場一一名部分スト(七時間)

針工場二二名部分スト(一・七五時間)

三月二八日 工具工場一二名部分スト(七時間)

三月二九日 全組合員二四時間スト

三月三一日 全組合員二四時間スト

四月 一日 工具工場一二名部分スト(七時間)

四月 二日 工具工場三名部分スト(七時間)

全組合員全面スト(一時間)

被告会社は一人平均八〇〇円の賃上げと年間臨時手当一人平均四万二〇〇〇円を出すことを提案

四月 三日 工具工場三名部分スト(七時間)

四月 四日 工具工場三名部分スト(七時間)

四月 七日 組合から反対提案として一人平均一〇〇〇円の賃上げ、他は被告会社案どおり

四月 八日 会社の組合案承認に伴い組合は一切の斗争指令を解除した

本件賃上げ斗争は右のような過程を経て昭和三三年四月八日円満解決をみたわけであるが、その間組合の採用した部分スト戦術により被告会社の生産は殆んど麻痺状態に陥り、その作業を停止するのやむなきにいたつたものである。

即ち被告会社はミシンを製造する会社であるが、その生命というべきものはミシン頭部の製造にある。而して被告会社におけるミシン頭部の製造は、まず鋳込みを行い、次いで機械加工し、これを塗装し塗装の終つた部分を組立て、組立を終つた頭部を検査し、合格したものを梱包出荷するという一貫した流れ作業により行つている。従つて部分ストによりその工程の一部が停止するようなことがあれば、その後の工程にある作業もまたおのずから停止せざるをえないのである。

特に本件斗争において組合は、前記の如く三月二二日以降塗装鍍金工場塗装関係組合員計三七名を無期限部分スト(以下単に本件部分ストと略称する)に入らしめるとゝもに、被告会社が他の従業員をもつて塗装業務を代行させないようにするため全組合員に対し「被告会社から組合員に対し職場転換並びに職務変更の業務命令があつた場合には一切これを拒否するよう」指令したのである。その結果被告会社においては、右塗装関係作業以後の工程にある流れ作業中の組立、検査、梱包、出荷の諸業務(以下単に関連職種と略称する)はすべてこれを停止するのほかなく、また上記の業務命令拒否指令によりこれらの工程にある組合員を他の作業に振りむけるわけにもいかなかつたのである。そこで被告会社は組合の右争議行為に対抗するため、三月二二日午後一時三〇分組合に対し右本件無期限部分ストに伴い当然作業停止のやむなきにいたる関連職種の業務に従事する組合員には賃金を支払わない旨通告した。

原告等はいずれも関連職種に従事する組合員であるが、本件部分ストの結果原告等の業務は順次終了し昭和三三年三月二二日以降同年四月九日迄の間空白となつたもので、これが各人別の詳細は次のとおりである。

(1)  遠山三郎について

遠山三郎は第一組立工場において班長として勤務していたものであるが、本件部分ストの結果

(イ) 三月二二日はまだ手持組立作業があつたので本件部分ストの影響を受けず平常通り作業を行つた。しかし同日をもつて通常の手持組立作業は全くなくなるにいたつた。(翌二三日は日曜日で休日、以下全員同じ)。そこでやむをえず三月二四日、二五日の両日及び二七日(二六日は全員ストに入つている、以下全員同じ。)午後二時四〇分まで、予ねて計画中の三軸タツプ盤、単軸タツプ盤の移動及び芯出し及び六軸タツプ盤のメタル交換を行わしめた。従つて被告会社はこの期間は作業したものとして取扱いその賃金は支払つた。

(ロ) 三月二七日同人の行うべき作業は全くなかつたが、当日は給料日であり、通常被告会社は給料を午後三時五〇分から同四時一五分の終業時にいたる間に支給し、その間従業員が現実に作業に従事しないでも賃金の支払いをしてきた関係上、この間の賃金は支払つた(以下全員同じ)。

(ハ) 三月二八日午前八時より同日午後四時一五分までは前記部分ストにより全く作業はなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

(ニ) 三月二九日及び三一日は全員二四時間スト、また三〇日は日曜日であつた(以下全員同じ)ため遠山は作業しなかつた。また四月一日も同人の行うべき通常の作業はなかつたのであるが、たまたま工具工場に依頼していた研磨機用芯金が完成納品されたので、被告会社は同人にこれが交換を行わしめ、同人は午前九時から同一一時三〇分まで右業務に従事したが、午前八時より同九時までの間及び午前一一時三〇分以降同日の午後四時一五分までの間は本件部分ストにより全く作業がなくなつたので、その賃金は支払つていない。

(ホ) 四月二日には同人の行うべき作業は全くなかつた。従つて賃金は支払つていない。しかし同日午後三時一五分以降午後四時一五分までは組合員全員出席の集会があり、被告会社はその事情を明確にするため右時間は本件賃金カツトの対象から除外している。

(ヘ) 同月三日以降同月八日までは本件部分ストにより同人の作業は全くなく、従つて被告会社はこの間の賃金は支払つていない(但し四月六日は日曜日につき休日、以下全員同じ)。

(2)  高田繁雄について

高田繁雄は第一組立工場において「孔さらい」工程に従事していたものであるが、本件部分ストの結果

(イ) 三月二二日はまだ手持の組立作業があつたので右部分ストの影響をうけず平常どおりの作業を行つた。しかし同日をもつて通常の手持の組立作業は全くなくなるにいたつた。そこで被告会社は、やむをえず三月二四日及び二五日の両日には右遠山三郎と共に、かねて計画中の三軸タツプ盤、単軸タツプ盤の移動及び芯出し、また六軸タツプ盤のメタル交換を行わしめた。従つて被告会社はこの期間は作業をしたものとして取扱い、その賃金は支払つた。

(ロ) 三月二七日以降は本件部分ストの終了するまで全く作業がなくなつた。従つて被告会社は同日以降の賃金は支払つていない。但し四月二日及び三日の両日は年次有給休暇の請求があり、被告会社はこれを承認したのでその賃金を支払つた。

(3)  佐藤誠二、池田守、中村一美、落合伊三郎、大石繁次、菅谷敏雄について

右六名は第一組立工場において「孔さらい」工程に従事していたものであるが、三月二二日にはまだ手持組立作業があつたので、右部分ストの影響をうけず平常どおり作業を行つた。しかし三月二四日午前一〇時以降四月八日までは本件部分ストにより全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。但し三月二四日の午後一時以降午後一時三〇分までは、かねて実施した「ツベルクリン反応」の検診を受けるよう被告会社が指示(当日はそれぞれの時間割により検診を受けるよう被告会社が指示したものであるところ、右時間は第一組立工場の検診時間にあたる)した関係上、前記六名は午後一時以降午後一時一〇分までに検診を受けたので、現実に作業には従事しなかつたがその賃金は支払つた。また池田守については四月五日、大石繁次については四月八日、それぞれ年次有給休暇の請求があり、被告会社はこれを承認したのでその賃金を支払つた。

(4)  五月女貞夫について

五月女貞夫は第一組立工場において「孔さらい」工程に従事していたものであるが、三月二二日にはまだ手持組立作業があつたので、右部分ストの影響をうけず平常どおり作業を行つた。しかし三月二四日午前一〇時以降四月八日までは全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

但し

(イ) 三月二四日午後一時より午後一時一〇分までは「ツベルクリン反応」検診のため賃金を支払つた。

(ロ) 三月二八日午前一〇時より午前一一時三〇分まで、及び同日午後二時より午後二時二五分まで、四月二日午後一時より午後二時五分まで、四月七日午後一時より午後三時一五分まで、四月八日午前一〇時より正午までの間は、それぞれ団体交渉に参加していたので、団体交渉に関する協定書にもとずき、現実には作業に従事しないでもその賃金は支払つた。

(ハ) 三月二五日午前一〇時より正午まで、三月二八日午前八時三〇分より午前一〇時まで及び同日午後一時より午後二時まで、四月三日午後二時三〇分より午後四時一五分まで、四月五日午後二時より午後四時一五分まで、四月七日午後三時一五分より午後四時一五分まで、はそれぞれ拡大斗争委員会に出席したので、この事情を明確にするため本件賃金カツトの対象から除外した。

(5)  大谷平二郎、広瀬茂治、藍原進、石塚義道、高橋寅造、菊地仲雄、佐藤繁明、麦倉義弘、中村征、石津正等について

右一〇名は第一組立工場において「流れ一」(上軸、天秤関係及びその他の組付作業)工程に従事していたものであるが、三月二二日にはまだ手持の組立作業があつたので、右部分ストの影響をうけず平常どおり作業を行つた。しかし、三月二四日午後二時より四月九日午前九時一〇分までは全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。但し藍原進については四月九日、佐藤繁明については四月七日及び九日の両日、それぞれ年次有給休暇の請求があり、被告会社はこれを承認したのでその賃金を支払つた。

(6)  福田喜四郎、阿久津長史郎、大登喜八郎について

右三名は第一組立工場において「流れ二」(押え棒、上下送り軸その他の組付作業)工程に従事していたものであるが、三月二四日午後二時二〇分以降四月九日午前九時四〇分まで全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

但し福田喜四郎については四月一日、二日の両日、阿久津長史郎については三月二五日、四月一日、二日、三日、四日、五日、それぞれ年次有給休暇の請求があり、被告会社はこれを承認したのでその賃金を支払つた。

(7)  手塚徳太郎、綱川親次、田仲静男、平野益弘、鱒渕文平、青木秀雄、内野勇策、井上盛三について

右八名は第一組立工場において「流れ三」(二股、大釜その他の組付作業)工程に従事していたものであるが、三月二四日午後三時四〇分より四月九日午前九時五〇分までは全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

但し手塚徳太郎については三月二四日、二五日の両日、平野益弘については三月二四日、四月九日の両日、鱒渕文平については三月二七日、二八日の両日、それぞれ年次有給休暇の請求があり、被告会社はこれを承認したのでその賃金を支払つた。

(8)  稲川清三について

稲川清三は第一組立工場において右「流れ三」工程に従事していたものであるが、三月二四日午後三時四〇分より四月九日午前九時五〇分までは全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

但し

(イ) 三月二八日午前一〇時より午前一一時三〇分まで及び同日午後二時より午後二時二五分まで、四月二日午後一時より午後二時五分まで、四月七日午後一時より午後三時一五分まで、四月八日午前一〇時より正午まで、はそれぞれ団体交渉に参加していたので、団体交渉に関する協定書にもとずき、現実に作業はしなかつたがその賃金を支払つた。

(ロ) 三月二五日午前一〇時より正午まで、三月二八日午前八時三〇分より午前一〇時まで及び同日午後一時より午後二時まで、四月三日午後二時三〇分より午後四時一五分まで、四月五日午後二時より午後四時一五分まで、四月七日午後三時一五分より午後四時一五分まで、はそれぞれ拡大斗争委員会に出席したので、その事情を明確にするため本件賃金カツトの対象から除外している。

(9)  増渕信夫、津川岩夫、亀井金吾、田崎栄一、大久保辰雄、関勝栄、松下佐助について

右七名は第一組立工場において「流れ四」(調整、油洗、部品付作業)工程に従事していたものであるが、三月二五日午前一〇時より四月九日午前一〇時二〇分まで全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

(10)  菊池富二について

菊池富二は第一組立工場において塗装手直し工程に従事していたものであるが、三月二五日午後一時より四月九日午前一一時三〇分までは全く作業がなくなつた。従つてこの間の賃金は支払つていない。

(11)  井上八郎について

井上八郎は検査課所属で、第一組立工場の縫試験に従事していたものであるが

(イ) 三月二二日はまだ手持組立作業があつたので本件部分ストの影響をうけず平常どおり縫試験を行い、三月二五日は入荷したエツジステツチヤー二一〇〇個のうち三月二四日よりの引続き分五〇〇個の受入検査をさせた。従つて被告会社としては当日作業したものとして取扱い、その賃金は支払つた。

(ロ) 三月二七日より四月九日午前一一時一〇分までは作業がなくなつたゝめ、その間の賃金は支払つていない。

但し、四月五日午前八時より午前九時までは、ラフラー一〇五〇個の抜取り受入検査を行わしめたので、この時間作業したものとして取扱いその賃金を支払つており、また四月七日午前八時より午前九時までは四月五日に受入検査の終らなかつたラフラー残数の抜取り受入検査を行わしめたので、この時間も作業したものとして取扱い、その賃金を支払つた。

(12)  行田鴻三について

行田鴻三は検査課所属で第一組立工場の縫試験に従事していたものであるが、三月二五日午後二時三〇分より四月九日午前一一時一〇分までは全く作業がなくなつたので、この間の賃金は支払つていない。

但し四月三日午前八時より午前九時までは、エツジステツチヤー九六六個の抜取り受入検査を行わしめたので、この時間は作業したものとして取扱い、その賃金は支払つた。

(13)  横須賀静江、梶井サト、木村フミについて

右三名は検査課所属で第一組立工場の縫試験に従事していたものであるが、三月二五日午後二時三〇分より四月九日午前一一時一〇分までは全く作業がなくなつたので、この間の賃金は支払つていない。

(14)  岩本貞雄について

岩本貞雄は検査課所属で第一組立工場完成品検査に従事していたものであるが、三月二五日午後二時三〇分より三月二七日午後三時五〇分まで及び四月八日午前八時より九日午前一〇時までの間は作業がなくなつたので、この間の賃金は支払つていない。

但し三月二八日、四月一日、二日、三日、四日、五日にはそれぞれ第二機械工場の部品検査を、また四月七日には第一機械工場の部品検査を行わしめたので、この期間は作業をしたものとして取扱い、その賃金は支払つた。

(15)  阿久津真郷について

阿久津真郷は検査課所属で第一組立工場の塗装検査に従事していたものであるが、三月二五日午後二時三〇分より午後四時一五分まで、四月二日午後二時五分より午後三時一五分まで、四月五日午前八時より午後二時まで、四月七日午前八時より正午まで、四月八日午前八時より午前一〇時まで及び同日午後一時より午後一時三〇分まで、は作業がなくなつたのでこの間の賃金は支払つていない。

但し

(イ) 三月二七日、二八日、四月一日、四月二日の午前八時より正午まで、四月三日、四日、同月八日の午後一時三〇分より九日の午前一〇時までは輸出協会検査の下見を行わしめた。従つてこの期間は作業したものとして取扱い、その賃金は支払つた。

(ロ) 四月二日午後一時より午後二時五分まで、四月七日午後一時より午後三時一五分まで、四月八日午前一〇時より正午まで、はいずれも団体交渉に参加したので、団体交渉に関する協定書にもとずき、現実に作業には従事しなかつたがその賃金は支払つた。

(ハ) 三月二八日午前八時三〇分より午前一〇時まで及び同日午後一時より午後二時まで、四月三日午後二時三〇分より午後四時一五分まで、四月五日午後二時より午後四時一五分まで、四月七日午後三時一五分より午後四時一五分まで、はそれぞれ拡大斗争委員会に出席したので、この期間については事情を明らかにするため本件カツトから除外した。

(16)  星野清について

星野清は検査課所属で第一組立工場の輸出協会検査の立会に従事していたものであるが、三月二五日午後二時三〇分より午後四時一五分までは作業がなくなつたのでこの間の賃金は支払つていない。

但し三月二七日より四月九日午前一〇時までは輸出協会検査の下見及び立会を行わしめた。従つてこの期間は作業したものとして取扱いその賃金は支払つた。

以上

そしてこれを表にあらわすと別表第三のとおりであるが、被告会社はかゝる場合次のような法理により賃金を支払う必要がないと認め、同表記載のとおりそれぞれ原告等につき賃金カツトを行つたのである。

即ち

(一) 原告等は塗装鍍金工場塗装関係組合員の無期限部分ストに伴い当然業務が停止する部門に属していたのであり、組合においてもかような効果をねらつて本件部分ストを実施せしめたことは、前記の如く組合が全組合員に対し「職場転換並びに職務変更の業務命令拒否」の指令を発し、本件部分ストの効果をさらに実効あらしめようとしたことによつて明白であるばかりでなく、また本件部分スト期間中組合幹部が組合員に対し、本件部分ストにより仕事がなくなつた場合は機械の手入れや窓の掃除をしているよう指示し、スト期間中組合幹部が原告等の関連職種の職場を巡視し塗装部門のスト参加者が二時間交替で右職場を見廻つていた事実があり、この事実は組合が関連職種の組合員を統制し、原告等の労務を完全に組合の管理支配下に集約したことを示しており、更に組合の戦術委員長が塗装出身の小久保であつた関係上、当時被告会社がシンガーミシンと提携し、またJ・I・S指定工場ともなつていたゝめ、塗装の仕事を下請に出すには下請工場の設備技術等を考慮しなければならず、その調査には相当の月日を要し、また臨時工を採用するとしても熟練者が集まらない等の諸事情は組合において十分承知のうえであつたはずであり、これらの諸事情を綜合すると本件部分ストは表面上は塗装関係組合員三七名に対する部分ストの形をとつているが、実質的には原告等の関連職種と不可分の関係にある一個の争議行為とみるほかはない。従つて原告等ははじめより組合の採用した本件部分スト戦術(関連職種麻痺戦術即ち欧米でいわゆるサボタージユ)そのものに組入れられていたもので、直接のスト参加者と共に組合の指令に服し、自からもまた当該争議行為に参加したものとみらるべきである。

(二) 仮りに原告等と本件部分ストとの間一体関係が認められないとしても、本件の如く部分ストにより原告等の作業が不能となつた場合には、これを原告等及び被告双方の責に帰すべからざる履行不能というべきであるから、被告は原告等に対しその間の賃金支払の義務はない。

(三) 仮りに右主張が理由がないとしても、被告会社は組合の本件争議行為に対抗して原告等に対しロツク・アウトを行つているのであるから、賃金支払の義務はない。

即ち本件部分スト指令及び職場転換、職務変更の業務命令拒否指令が出された当時の状況において、被告会社としてはこれに対抗する何等かの手段を講ずる必要を認めていたところ、ロツク・アウトには物的ロツク・アウトと人的ロツク・アウトの二種があり、前者の方が組合員を職場より物理的に締め出すという意味で強力な手段であると考えたが、当時物的ロツク・アウトをとるとすれば工場の各門を閉塞し、通路を設け、バリケードを構築し、多数の労働者の工場内への立入りを禁止するほかはないが、原告等の職場と他の職場とは互いに交錯しており、バリケード等をもつて両者を隔絶することは物理的に不可能な状態にあり、またかゝる措置をとることは徒らに組合員を刺戟し、紛争を長期化させるおそれがあるばかりか、労働者の利益でもないため、被告会社は穏やかな人的ロツク・アウトを採用したのである。

そこで被告会社は三月二二日、組合に対し「賃金カツトに関する件(通告)」との題名の下に、「貴組合は指令第二四号を以て本二二日午前八時より塗装工場の無期限部分ストを実施中でありますが、本争議行為により他の関連職種においても必然的に作業中断のやむなきにいたります。よつて遺憾ながら会社は作業中断の関連職種について民法第五三六条第一項にもとずき賃金カツトを行います。」との通告を文書で行つた。

もつともこの通告は一見ロツク・アウト通告ではないようにも見えるかも知れない。たしかに右通告は民法の条項を引用しているが、それは被告会社が通告文にはなにか法的根拠を示さねばならないという考えに出たものであるにすぎない。而して右賃金カツト通告が組合の本件部分ストに対する対抗的手段としてなされたものであることはその文言に徴し明白であり、わが国においてロツク・アウトが使用者に許された唯一の争議手段であることを考え併せれば、右通告が組合に対する人的ロツク・アウト通告と解さるべきが当然である。

更に被告会社は、組合に対し右通告を行つたのみならず、塗装工場の本件部分ストにより作業のなくなる関連職種の従業員に対し、仕事がなくなつた場合には賃金を支払わない旨を周知せしめている。

このように被告会社は組合の本件部分ストに対抗する措置として原告等に対し人的ロツク・アウトを行つているのであるから、本訴請求は失当である。

(四) ちなみに、本件のような場合原告等に賃金請求権ありとするならば、組合が何時でも少数労働者の部分ストを指令して企業の急所を抑え、以て企業の全部又は一部を麻痺せしめ、しかも就労不能者が賃金を受領し、自からはごく僅少の損失を蒙るにすぎないにもかゝわらず、企業に破滅的打撃を与えることゝなり、このため企業は労働組合の意のまゝに揺ぶられ、その安定が不断に脅やかされるばかりでなく、企業支配権が次第に経営者の手を離れて実質上組合管理の方向に移行することは必至である。従つて生産管理や職場支配に通ずるかゝる戦術は当然厳正に批判さるべきものであつて、もし原告等に賃金請求権を認めるにおいては、ために憲法に保障するところの企業者側の私有財産の基幹を揺がす結果をも生じ、違憲違法とならざるを得ないものと考える。以上の観点からしても原告等の請求は全面的に否定さるべきである

とのべた。

三、原告等訴訟代理人は、被告の右主張に対し

被告会社の従業員八五三名中労働組合法第二条但書該当者を除く六五八名が労働組合を結成しており、原告等はいずれもその組合員であること、昭和三三年春に行われた争議の経過が被告主張のとおりであること、右斗争過程において同年三月二二日より塗装鍍金工場塗装部門の組合員三七名が無期限部分ストに入り、更に組合が組合員に対して職場転換・職務変更の業務命令拒否の指令を発したのに対抗して、被告会社が右部門の関連職種に従事する組合員に対しては賃金を支払わない旨通告したこと、原告等が本件斗争当時所属していた作業部門がいずれも被告主張のとおりの職種であり、且つそれがいずれも被告のいわゆる部分スト部門の関連職種に属すること、別表第三記載の本件賃金カツトの対象となつた時間中原告等に通常の業務がなかつたことはいずれも認めるが、その余の点はすべて争う。

(一)  原告等は本件部分ストに参加したものではない。前記の如く所定就業時間中会社に出勤し、被告会社の指示を待つていたものであつて、これは労働契約上の労務の提供にあたるものであり、従つてその間の賃金請求権を失うものではない。

被告は組合が職場職換の業務命令拒否を指令したから塗装工場以下の組合員を他の労務につかせることはできなかつたというかも知れないが、現に他の職務についての指示もなかつたし、更に被告も自認する如く原告等がその期間、自己の使用する機械類の整備をしたり、その所属工場の清掃をしたりしていたところ、被告会社はこれを許容していたものであつて、むしろ被告会社は原告等の労務を受領していたものである。

(二)  また被告の主張する原告等が本件部分ストに組入れられていたとの理論は、組合員はその組合の構成員として部分スト指令について何らかの責任があるという考えを基礎としているかも知れないがこれが正しくない。即ち、組合の決定は多数決で行われ、しかも無記名投票であるから、原告等が争議権の確立についてどのような投票をしたのか不明であるばかりか、更には組合で投票したのは同盟罷業であつて、それが具体的にはどのような争議行為となるかは組合執行機関で定められるものであり、且つ組合員と組合との関係は委任契約とは全く異なるから、組合員が組合執行部の行為に連帯責任を、或いは本人としての責任を生ずるいわれはないからである。

更に被告の右理論が、組合が塗装関係並びにこれと関連する職種全体の争議行為を企画し、原告等がこれに参加したとするのも当を得ない。なるほど、いわゆる流れ作業における部分ストが行われた場合、それと関連する職種の業務が停止する状態が現に発生する可能性はあるが、使用者はその停滞した職務についての他の業者にこれを委託するとか他の労務者を雇入れるとかしてその損失を補う自由を一般的に否定されるものではない(もつともこの際組合が法の許容する範囲でピケツトなどの行為にでることは可能である)。しかも本件労使間において、これを禁ずるいかなる協約も存しなかつたのである。

(三)  また本件が履行不能であるとしても、被告会社の主張するように双方の責に帰すべからざる履行不能ではなく、被告会社の責に帰すべき履行不能である。即ち、本件では被告会社と労働者との賃金交渉のため部分ストとなつたのであるが、これはあたかも原材料の値段が折合わずして事業停止となつた場合と同様に考えるべきであり且つ前記の如く他の塗装業者等との契約が可能であるにもかかわらず、これをなさずして自から事業の部分的停止を結果したもので、その責を免れない。

(四)  更に被告は、「人的ロツク・アウト」として賃金不払を通告したというが、その「人的」なる意味が不明であるばかりでなく、その通告は賃金を支払わない旨を通告したのみで、ロツク・アウトにいわゆる労務の受領拒否が告げられておらず、従つて右通告はロツク・アウト通告とは称しえないものである。

以上の次第であるから、原告等は、被告主張の如く全体的争議行為の責任を追及されるいわれはなく、単に部分ストの反射的効果として、行うべき職務が形の上で不完全となつた状態の下に、労務を提供したもので、組合の部分ストを理由に原告等から賃金差引を行うことは、労働組合法第七条第一号に、また同法第八条にも該当するものといわねばならない

とのべた。

四、被告訴訟代理人は、原告等の右主張に対し更に

(一)  原告等が「使用者はその停滞した職務について他の業者にこれを委託するとか、他の労務者を雇入れるとかしてその損失を補う自由を一般的に否定されるものではない。」といつていることは、もとより被告としても異存はない。けだしそれは経営権の作用として被告会社の当然になしうるところだからである。

しかしながら、被告会社がかような応急措置を採るか否かは本来被告会社の自由に選択すべき事柄であつて、かゝる措置を採らなかつたからといつて、原告等の非難を受けるべき筋合のものでは決してない。原告等の主張によれば、あたかも被告会社がかゝる措置を講じて関連職種の労働者(原告等)にフルに仕事を与える義務でも負つているかの如くであるが、およそ使用者にはかゝる措置を構ずる義務もないし、又そうすることによつて彼等を扶養すべき義務もない。況んや組合が部分ストによる麻痺戦術を実行しているさ中にあつて、これが争議関係者たる原告等に強いて仕事を調達し、賃金全額を支払い、もつて部分スト戦術を効果あらしめ、これを援助するが如き行為は、かえつて争議公正の原則に反し、使用者の不当労働行為をも構成するにいたるであろう。

(二)  また本件賃金カツトは労働組合法第七条第一号にも、また同法第八条にも違反するものではなく、これに関する原告の主張は見当違いな議論である。

まず、被告は「この種業務妨害戦術が違法な争議行為だから賃金カツトをする」等とは一度も言つていないのであつて、組合活動を理由として不利益処遇をしたものではない。部分ストの結果物理的必然的に仕事がなくなつたからその限度において、これと組織的一体関係にある原告等の賃金をカツトしたまでのことであつて、労働組合法第七条第一号の不当労働行為とは何等の関連をもたない別個の問題である。

また同様の理由により、賃金カツトは争議行為より生じた損害の賠償を意味するものでもないから、同法第八条違反の問題を生ずることも、もちろんありえない。

とのべた。(立証省略)

理由

一、当事者間に争いのない事実

原告等が昭和三三年三月当時より今日にいたるまでひきつゞき被告会社の従業員であり、且つ同会社従業員中労働組合法第二条但書該当者を除く六五八名により結成された労働組合の組合員であること、右組合が昭和三三年春被告会社との間に被告主張のような経緯で争議を行つたこと、この過程において組合の指令により同年三月二二日より被告会社塗装鍍金工場塗装部門の組合員三七名が始業時より無期限部分ストに入つたこと、組合はこれと併行して全組合員に対し同日職場転換・職務変更の業務命令を拒否するよう指令したこと、これに対抗して被告会社は同日組合に対し、右部門の関連職種に従事する組合員に対しては賃金を支払わない旨通告したこと、右争議当時の原告等所属の作業部門は被告主張の如き流れ作業中の第一組立工場内の各部門であつたこと、第一組立工場は本件部分ストの行われた塗装部門以後の工程に属すること、本件部分ストの結果別表第三記載の各時間中原告等には通常行うべき仕事が絶えたこと、同年三月一六日より四月一五日までの期間(即ち被告会社における同年四月分賃金支払の対象となつた期間。なお右四月一日から四月一五日までは同年五月分賃金支払の際併せて四月一日以降昇給分の精算が行われたのでその支払の対象ともなつた)において、別表第三記載の賃金カツト時間及び所定の休日、スト参加時間を除き、原告等が労務を提供し被告がこれを受領したこと、別表第三記載の各時間中も原告等がひきつゞき被告会社に出勤していたこと、別表第三記載の各時間についても原告等がその賃金をもらえるものとすれば、別表第二「支払を受けうべかりし給与額」欄記載の金額となるはずであるのにかゝわらず、被告会社が右時間について賃金カツトを行つたゝめ、原告等は別表第三「現実支給額」欄記載の金額だけしか支給をうけなかつたこと、についてはいずれも当事者間に争いがない。

二、争点

従つて本件の争点は結局、別表第三記載の各時間、すなわち原告等が被告会社に出勤はしていたが、組合の行つた本件部分ストの結果その関連職種に従事していた原告等に行うべき仕事がなくなつた時間につき、原告等に賃金請求権があるか否かに帰著する。

三、部分ストと他の労働者の賃金請求権

この点に関し、被告代理人はまず、組合の採用した本件部分ストは流れ作業中の関連職種をも一体として麻痺させる争議行為(欧米でいわゆるサボタージユ)であつて、右ストには関連職種に従事していた原告等の作業部門をも組入れられていたものであるから、原告等は直接の右スト参加者と共に組合の指令下に当該争議行為に参加したものとみるべきである旨主張する。なるほど本件部分ストにより流れ作業中の塗装部門の仕事が停止すれば、被告会社の方で直ちに何らかの方法―例えば、配置転換または新規雇入れによつてスト部門の従業員を急速に補充するか、もしくは他の塗装業者に注文するなど―によつて塗装部門の仕事が続けられるように処置しない限り(被告会社においてかゝる臨機の措置を講じ得ない事情にあつたことは後段認定のとおりであるが)、その後に続く関連職種の仕事はたちまちなくなり、延いて作業全体が麻痺状態に陥いることは当然予想し得るところであつて、組合が争議行為として本件部分ストを選んだ所以のものも右のような大きな効果を狙つたものであることは、これを推測するに難くない。けれども、右のような結果は、組合や従業員の意思如何にかゝわらず、作業の仕組の上から必然的に起る現象であつて、これがためにスト部門以外の関連職種の従業員までも争議行為に加担して争議状態にはいつたものとみることは相当でない。従つて被告の前記見解は採用しがたい。

しかしながら、亦他方およそ双務契約の労働関係においては、使用者の協力なくしては労働者も債務の履行を為し得ない関係にあることも是認せられなければならないけれども所謂部分ストの結果他の労働者を就業させることが社会観念上不能または無価値である場合には、双務契約の性質上当事者双方の責に帰すべからざる事由による履行不能と解するのが相当であるから債権者受領遅滞のような問題も生じ得ないものといわねばならない。従つて出勤したスト関係者以外の労働者も反対給付たる賃金の支払をうける権利を有しないものというべきである。けだし、争議権が労働者に保証されており、使用者には労働者の右争議行為を停止することを強制する途がないことに徴するも前記のような履行不能はこれを単なる原材料の価格が折合わず之が為労働者に材料の供給ができず事業停止となつた場合と同一視し、使用者の労務管理の不手際から生ずるものとして常に使用者の責に帰すべきものとするのは公平の理念に反し条理上当を得ないからである。従つてこれに反する原告等代理人の見解は採用し難い。

四、本訴請求について

これを本件についてみると次のとおりである。

すなわち証人阿久津秀夫の証言により成立の認められる甲第一号証の一乃至三、同第二号証の一乃至三、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第四号証、証人越口広夫(後記信用しない部分を除く)、同阿久津秀夫、同小久保善男(後記信用しない部分を除く)、同渡辺明(第一回)、同吉沢峯夫等の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると、

(一)  被告会社における前記争議当時のミシンの製造は、頭部の製造とテーブル部分の製造に大別されるが、前者の製造工程は、

(1)  まず鋳物工場において原料を鋳型に入れて鋳造し、

(2)  それを第一機械工場で切削加工し、

(3)  それを塗装鍍金工場に送つて必要部分に鍍金を施し、塗装を要する部分には塗装部門従業員四九名(うち組合員三八名)の分業により順次段階をふんで各種の塗装を行い、

(4)  しかる後直ちに第一組立工場にこれが送られ、同工場内のコンベヤーでこれを運ばれる途中において、第二機械工場等で製造された部品をその内部に順次取付けられて組立が行われ、

(5)  最後に商品課に送られる、

という順序で行われることになつており、右各工場はいずれも同一敷地内にあつて、各工場の分業による一貫した流れ作業により製造が行われる体制になつていたこと、

(二)  原告等の働く第一組立工場は、右コンベヤー脇の組立作業を中心とし、これを補助する若干の作業が併せ設けられているという構成であつたこと、

(三)  前記塗装部門組合員三七名がストを行つた場合には、ミシン頭部塗装の作業は一切停止するのほかはなかつたこと、

(四)  被告会社では本件争議当時、シンガーミシンと技術提携をなしており、またJ・I・S指定工場ともなつていた関係から塗装部門の仕事については一切外部発注はしていなかつたばかりでなく、当時宇都宮市内には他にJ・I・S指定の塗装工場がないため、塗装の仕事を外部に下請に出すことは簡単には行い得なかつたこと、及び塗装には一定の技術が必要であるため、早急に他から臨時の労務者を雇入れることも困難であつたこと、

(五)  このため塗装部門の部分ストにより塗装工場における一切の作業が停止されるや、第一組立工場には組立作業を行うべきミシン頭部が送られて来なくなり、ストツクが切れると同時に同工場の仕事がなくなつたこと、

(六)  組合では本件部分ストの効果を十分発揮するため組合員に対し職場転換・職務変更の業務命令拒否を指令したが、被告会社においても組合側のかゝる意図を察知し、波乱を避けるためもあつて敢えてかゝる業務命令を発することはしなかつたが、さしずめ原告等をその他の部門に流用することは工具類の員数にも限度があるため事実上できない事情にあつたこと

が認められる。

なおこれに反し、前記越口広夫の証言中頭部の塗装を本件争議当時においても外部に発注していた旨のべる部分は、前記各証拠によれば外注は被告会社がJ・I・S指定を受ける前即ち昭和三〇年頃までのことであることが認められることに徴し、にわかに信用できない。

また前記小久保善男の証言中、塗装部門の外注は簡単に可能である旨のべる部分も、前記認定の如く被告会社がJ・I・S指定をうけており、他に指定工場が宇都宮市内になかつた事実に徴しにわかに信用できない。けだし、およそJ・I・S制度は、工業標準化法にもとずき工業標準を制定し、主務大臣の許可によりJ・I・Sマークを付することを許された商品につき、その品質を国家的に保証し、もつて取引の単純公正化と消費の合理化をはかり、あわせて公共の福祉の増進に寄与することを目的として制定されたものであつて(同法第一条)、主務大臣の許可に際しては、規格品が永続的に生産されうるか否かについて、その工場の品質管理状況その他の技術的生産条件が詳しく審査されることになつており(同法第一九条第二項)、また一旦許可を受けた後も、その品質管理状況その他の技術的生産条件が適正でないと認められたときは、J・I・S表示の変更、指定商品の販売の停止又は許可の取消などの措置が採られる(同法第二三条)ことになつており、下請に出す際にはすくなくもこれらの条件に欠けることのないよう留意しなければならないものと考えられるので、同証人の述べるように如何なる町工場へでも簡単に発注しうるものとは解しえないからである。

そしてその他に前記認定に反する証拠はない。

してみれば、結局本件部分ストの結果被告会社においては原告等を就労させることが実質的に不能であつたと認められるから、原告等が別表第三記載の時間につきなすべき仕事をもたなかつたことは当事者双方の責に帰すべからざる事由による履行不能と解すべく、従つて原告等はこれに対する賃金請求権を有しないものといわなければならない。

従つてまた被告会社がこれを支払わなかつたからといつて、之と趣旨を異にする労働組合法第七条第一号にも、第八条にも違反しないことはいうまでもない。

ちなみに、原告代理人は、原告等は本件部分スト期間中被告会社に出勤して自己の使用する機械類の整備をしたり、工場の清掃をしたりしており、被告会社もこれを許容していたものであつて、原告等の労務を受領していた旨主張するのであるが、証人渡辺明(第一回)、同吉沢峯夫の各証言、原告本人増渕信夫、同遠山三郎各本人尋問の結果によれば、原告等がかゝる整備・清掃等の作業を行つたことは認められるが、これは組合幹部の指示により被告会社には無断で行われたものにすぎず、被告会社においては何等の作業指示もなさずに原告等を放置してあつたこと、右作業も二、三日とはかゝらずに終了し、その後は原告等は週刊誌などを読んで時間を過していたことが認められ、これに反する証拠はない。かゝる事実関係よりみれば、未だ被告会社が原告等のかゝる作業を許容していたとは解し難く、従つて労務の提供を受領したものとは認め難い。

五、結論

してみれば、原告等の本訴請求はすべて失当であるからこれを棄却することゝし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 広瀬賢三 奥村誠)

(別表省略)

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